写真:林慎一郎さん 林建設ロビーにて
来年120周年を迎える調布市内の老舗企業「林建設」(調布市小島町2)の経営に携わり、日本青年会議所関東地区東京ブロック協議会会長を務める林慎一郎さん。調布に生まれ、市外で多くの時間を過ごしてきたからこそ見える地元の魅力と可能性。国内外の青年会議所活動を通して磨かれた社会への視点。本業と地域活動を一体として走り続ける林さんの挑戦と思いを聞いた。
【地域に貢献する事業経営の中で人材育成に注力】
1906(明治39)年創業の林建設は、100年以上にわたって調布の街とともに歩んできた老舗企業。「社会に貢献することをもってこれを使命とする」という理念の下、「地域密着・建設業界の地域ナンバーワン」を目標に、建築設計から施工、土木工事まで手がける総合建設業として、市内のインフラや公共施設の整備など、調布の街の暮らしを支えてきた。さらに調布リトルリーグ・シニアリーグを通した青少年育成や、布多天神祭など地域行事への参加など、地域貢献活動も事業の一環として位置づけ、会社を挙げて関わっている。
林さんは大学卒業後、大手住宅メーカーで注文住宅の営業などを経験し、30歳で林建設に入社した。現在は経営陣の一員として、経営戦略・総務・人事・経理部門を管轄し、大手企業で得た知見を基に自社の課題改善を推し進めている。
「楽しさの中にやりがいのある会社を目指し、社員が成長できる場を提供したい」との思いから、特に人材育成に力を入れ、若手社員に相談相手を付ける「ブラザーシスター制度」を新設。建築・土木の専門知識を学べるeラーニング「林建設アカデミー」の開発部門を立ち上げて導入するなど、新たな取り組みを行った。この改革の成果は着実に現れ、直近3年間の若手社員の離職はゼロ。採用面でも好影響が出ているという。
こうした改革の背景には、青年会議所での出会いや学びがあったと言い、「さまざまな経営者から学んだ取り組みを自社にも取り入れている」と語る。
写真:林建設が手がけた布田3丁目広場整備工事
【地域から始まった活動が世界的視野の貢献に】
世界各国に拠点を持ち、20~40歳までの若者が地域社会に貢献する活動を行っている青年会議所。日本では1949(昭和24)年に活動が始まり、調布青年会議所は1970(昭和45年)に発足。今年10月で55周年を迎える。
林さんが調布青年会議所に入会したのは林建設に入社してすぐ。父もかつて理事長を務めていたが、当時はその様子を見る機会はなかった。知人もおらず、活動内容も知らないまま、地元を知る良い機会だと思い、誘いに従って入会した。そこには「地元を良くしたい」という熱い思いを持つ同世代が集まっていて、「その魅力に一気に引き込まれた」と当時を振り返る。
2021年には調布青年会議所理事長に就任。その後、活動の舞台は全国、さらには世界へと広がり、2023年に日本青年会議所の理事会構成メンバーとして、年間180泊というハードなスケジュールで国内外を飛び回る日々を送った。その中で、全国各地で活躍する青年たちや、桁違いの活躍をしている海外の若者との出会いは「価値観が大きく変わるような体験だった」と振り返る。
今年で40歳を迎え、青年会議所での活動も最終年となった現在は、東京都内にある24団体、約1300人を束ねる「日本青年会議所東京ブロック協議会」会長を務める。「Push the Limit!~その一歩が、新たな未来を切り開く~」というスローガンを掲げ、それぞれの地域の課題解決の伴走者となり、イノベーションを起こすリーダーの育成に尽力している。
写真:青年会議所 海外での活動の様子
【調布に生まれ、外から調布を見つめる】
林さんは調布生まれ。小・中学校は市外に通い、小学生時代はサッカー漬けの日々を送った。その後、野球に転向して高校は野球の強豪校に進学。厳しい寮生活を送りながら野球一色の日々を過ごし、甲子園出場を果たした。大学時代も寮生活を送り、仲間と切磋琢磨(せっさたくま)した経験が、現在のチームづくりにも生きているという。
実家は今も調布市内にあるが、「正直、調布での思い出はあまりない」という林さん。だからこそ、地元を外から見つめる視点を自然と持つようになった。「大きなスタジアム、飛行場、多摩川、深大寺、映画文化、アクセスの良さなど、ここまでそろった地域は他にはそうそうない。地元の人はその価値に気付いていないのかもしれない」と指摘する。
一方で、調布ならではの名産品をもっと打ち出せたらいいのではないかという課題意識も持つ。地域を俯瞰(ふかん)する視点も学生時代の経験を通して養われ、青年会議所の活動を通してさらに磨かれていったようだ。
写真:高校生活は野球一色
【本業と地域活動は一体】
建設会社の役員と地域活動のリーダーという2つの立場を両立していることについて林さんは「切り分けるものではなく一体のもの」だという。青年会議所の活動を通じて、カンボジアやインドネシアの若者と出会い、交流を深めたことがきっかけとなって、昨年カンボジアに林建設の現地法人「ALTHOS PARTNERS JAPAN」を設立した。カンボジアからのインターンシップを日本で受け入れる体制も整えるなど、新たな挑戦も始まっている。今後も、「これまで通り地域を守る責任に加え、建設業の枠を超えたチャレンジも続けていきたい」と話す。
将来の夢を尋ねると「スポーツの街・調布に、ボールパークを作りたい」と目を輝かせた。「一生懸命頑張る」ことを信条に、調布を見つめ続け、建設会社と社会貢献団体という2つのフィールドで走り続ける元野球少年の夢。林さんの次なる一歩に期待が高まる。
写真:日本青年会議所東京ブロック協議会会長としてあいさつ