特集

シリーズ【調布で輝く人たち】Vol.02
「多様な人々が混ざり合う社会をつくりたい」
「みんぐるりんご」主宰/「トビバコ」運営 西村達也さん

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写真:みんぐるりんご主宰でトビバコを運営する西村達也さん
写真:みんぐるりんご主宰でトビバコを運営する西村達也さん

 「誰も使っていなかった空き家が、誰かの居場所になっていることに気付いたんです」
 そう語るのは、調布の住宅街にある空き家を使い、地域の大人たちがさまざまな活動を行う場「トビバコ」(調布市飛田給3)を運営する西村達也さん。IT企業のプロダクトマネジャーとして働きながら、妻の愛子さんとアートチーム「みんぐるりんご」を主宰し、テクノロジーとアート、教育とデザインが融合する創造的な場を探求し続けている。

 地域の子どもや大人にとっての「秘密基地」となっていた「トビバコ」は今年2月末で期間満了を迎えた。空き家の可能性を信じ活動を続ける西村さんに、その思いやこれからの展望を聞いた。

【きっかけは調布市の空き家利活用促進プロジェクト】

 現在、システム開発を行うIT企業のプロダクトマネジャーとして、クライアントとの折衝やUI/UXのデザインなどを担当する一方で、妻の愛子さんと主宰するアートチーム「みんぐるりんご」の活動も行うパラレルワークをしている西村逹也さん。「みんぐるりんご」の名前には、「みんぐる=mingle(混ざり合う)」と「りんご=lingo(言葉)」という意味を込め、多様な人々の感性が混ざり合い、新しい価値が生まれる瞬間を大切にした活動を行っている。アート作品や舞台美術制作、STREAM教育、ワークショップの開催など、活動は多岐にわたり、市内では公民館や商工会などでイベントを開催。西村さんは主に企画やネットワーク作りを担当し、妻の愛子さんが主に制作をし、二人三脚で活動を続けている。

写真:「みんぐるりんご」が開催したワークショップの様子
写真:「みんぐるりんご」が開催したワークショップの様子

 空き家との出合いは、2022年に調布市が空き家で活動する事業者を募集していたこと。調布市では2020年から「調布市エリアリノベーション事業」として、空き家の利活用を促進するプロジェクトを進め、空き家を使って地域と連携しながら持続可能な事業に挑戦する市民を募集していた。そこに「みんぐるりんご」の活動拠点として応募して選ばれ、市の担当者やプロジェクトのプロデューサーの助言の下、「富士見BASE(ベース)」(富士見町)と名付け活動を始めた。

 契約期間は1年間。契約満了後も活動を続けたいと思い、新たな空き家の紹介を受け、今度は事業者を集める側となって、地域密着の参加型イベントスペース「トビバコ」の運営を始めた。

【誰も使わなくなった空き家が、誰かの居場所になる】

 空き家の活用を続けた理由は3つ。1つ目は、空き家だからこそ果たせる「居場所としての役割」を実感したこと。古い空き家は、おばあちゃんの家のような懐かしさや、かしこまらずに立ち寄れる雰囲気があり、初対面の人同士でも話しやすい空気感があったと言う。頻繁に遊びに来る子どもがいたり、自閉症の子どもを持つ親が「どこに行っても習い事を断られてしまう」と打ち明けてくれたりと、古民家だからこその出会いだと感じていた。その親から「ワークショップをやってもらえませんか」と相談されたことをきっかけに、障害の有無にかかわらず、混ざり合って楽しめるアート活動を始めることになった。これは「みんぐるりんご」が目指す「多様な人々が混ざり合う」活動の大きな一歩となった。
 「誰も使わない」「古い」というネガティブな要素が逆に価値になり、空き家が誰かの居場所になることを実感し、「空き家の利活用に関わる価値を感じた」と言う。

 2つ目は、富士見ベースの事業者として共に選ばれた、プラスチックごみのアップサイクル「pebbles(ペブルス)」を主宰する太田風美さんとの出会い。富士見ベースの運営を通じてさまざま意見交換を行い、「とにかく楽しく、このまま終わるのはもったいない、引き続き一緒に考えながら活動していきたい」と思ったと言う。太田さんからの共感も、空き家での活動の継続を後押しした。

 現在では、カプセルトイのカプセルをアップサイクルする「カプセルジェム」を共同制作してワークショップに出店するなど、みんぐるりんごとペブルスでの協働の機会も増えている。

写真:みんぐるりんごとペブルスで共同制作したカプセルジェム 写真:みんぐるりんごとペブルスで共同制作したカプセルジェム
写真:みんぐるりんごとペブルスで共同制作したカプセルジェム

 3つ目は、調布市内の空き家利活用の実践事例を絶やしてはいけないという思い。市内だけでなく、近隣地域にもあまりない取り組みを残していくことは、社会的価値、社会的責任なのではないかと思い、空き家の利活用を続ける決意をしたと言う。

【調布市在住歴は子育て歴】

 西村さんが調布市に住むようになったのは2017(平成29)年。長男の誕生を機に、夫婦の通勤に便利で、子育てしやすそうな環境を求め選んだ。実際に住んでみると、日々の生活に必要な物が市内で全てそろい、生活が完結することの快適さを実感。子どもがいると車移動も多くなるため、比較的道路が広い点も子育てしやすいと感じているという。

 子どもを連れてよく訪れるのはタコ公園や野川公園などで、一番好きな場所は調布駅前の「てつみち」。多摩川沿いでは、ピクニックしたり、寝かしつけるために自転車で走ったり。現在3人の男児の子育て真っ只中なので、育児の時間は生活の大きな割合を占めている。

 西村さんが調布に「もっとあったらいいな」と感じているのは、アートの要素が強い場所。せんがわ劇場などアート施設はあるものの、例えばアートカフェのような場があったら楽しいな…そんな場を自分で形にすることもうっすらと思い描いているそうだ。

【新トビバコ構想と日常的な寄付のしくみづくり】

 2023年にスタートした「トビバコ」では、みんぐるりんごとペブルスの活動のほか、五味太郎さんの絵本を集めた部屋、駄菓子屋、自習室、地域の手伝いなど、13の事業者が多様な活動を行ってきた。

 ここでもさまざまな人たちが出会い、つながり、不登校だった児童がここで友達を作り、再び学校に通えるようになったというエピソードも生まれた。トビバコも地域にとって大切な「秘密基地」になっていたと西村さんは振り返る。

 今年2月でいったん契約満了を迎えたが、家主の理解を得て、さらに2年間の継続が決定。現在「トビバコ第2弾」としてリニューアルの準備を進めている。これまで参加していた事業者や、富士見ベースの企画から関わっている共立女子大建築計画研究室の学生たちの活動の場を続けることに加え、ものづくりや体験を通して「クリエーティブラボ」をテーマにした実験的な場にして行くことを計画している。

写真:今年2月で一旦終了した空き家を使った居場所「トビバコ」
写真:今年2月で一旦終了した空き家を使った居場所「トビバコ」

 さらに西村さんが新たに取り組みたいと考えているのは、街角でさりげなく寄付できる仕組み作り。社会にとって良いことをしようと活動する人たちが、資金の確保に苦労する姿を見てきた中で、「支援したい人が支援先を選び、気軽に寄付できる方法を模索していきたい」と思うようになったという。

「寄付が特別なことではなく、日常の当たり前の社会になり、みんぐるりんごが目指す『多様な人々が混ざり合う社会』をさらに進めていきたい」という西村さんの挑戦は続く。

写真:みんぐるりんごの西村さん夫婦
写真:みんぐるりんごの西村さん夫婦

みんぐるりんご ホームページ

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