-アートとの出会いについて教えて下さい。
私の母がお絵かき教室をやっていて、小さいころから生活の中に絵を描くことやものづくりをする環境がありました。でも、身近にあり過ぎて、それを特別魅力的に感じることはありませんでした。
むしろ、理系だった高校生のころの私は「科学者になろう」と考えていて、思い切ってアメリカへ留学しました。最初は言葉の壁もあり、コミュニケーションが思うようにとれず苦労しました。
そんな時、たまたま受けた、アートの授業で私の絵を見た同級生たちが、「Neat(いいね!)」「これほしい!」と声を掛けてくれました。
「アートでコミュニケーションできるんだ」と気付いた瞬間でした。それから、お祝いやパーティーで自分の作品を友達にプレゼントするようになりました。その度、大きなリアクションで喜んでくれるみんなの笑顔を見ていると、作品を作ることでこんなにも人を楽しませることができるのだと実感しました。この経験が、今の私の原点になっていると思います。
その後は迷うことなく美術系に進路変更して、多摩美術大学入学後は作品制作に没頭することになります。
-これまで子ども向けのアートの活動などに関わってきたそうですが、どうして子ども向けにアートの活動をされるようになったのですか?
大学の美術教育ゼミで出会った友人たちとアートについて語り合うことが楽しくて、東京芸術大学大学院で美術教育を専攻しました。卒業後、ご縁のあった宇都宮美術館で、偶然子ども向けの美術の講座を担当することになりました。それまで直接子どもと一緒に活動したことがなかったため、初めは戸惑いましたが、いざ子どもたちと一緒にやってみると、子どもたちの自由な感覚に驚きました。
「その木の枝をそう使うの?」「絵なのに立体になっちゃうの?」など驚きばかりでした。それまで私は、柔軟なアイデアで自分の作品制作をしていると思っていたのですが、子どもたちの表現に触れ、無意識に枠の中でやっていたことに気付かされました。その経験から、子どもたち向けの活動も制作活動と平行してやりたいと思うようになり、教室を開き、保育園や幼稚園の先生を対象とした造形活動の研修講師などをするようになりました。
―子どもたちにどのようなプログラムを提供しているのですか?
子どもの意思を尊重し、プロセスを大切にしたプログラムを提供しています。個人制作だけでなくグループ制作にも取り組みます。
研修講師をしていたある保育園で子どもたちがグループ制作に取り組んだ時、木の船の飾りに浮輪を付けるかどうかという議論が起こりました。
もともと子どもたちの計画書にはなかった飾りなので、「設計図にないからダメ!」というグループの意見に対して、「もし誰かが落っこちちゃったら助けられないでしょ!」と主張する子がいました。みんなも「なるほど…」と共感して、一つだけ浮輪が付けられることになりました。
子どもたちの作品作りにはこうしたドラマがたくさんあります。意欲を持てるように「何を作りたい?」「じゃあ、どうしたいの?」と投げかけながら活動を広げるようにしています。
また、作品づくりだけでなく、発表・鑑賞を行い子どもたちが作品を振り返ることも大切にしています。
―そのような活動の中でこの「街のアトリエ」という場を作られた経緯を教えて下さい。
子どもたちへの思いもありますが、海外で見てきたいろいろなアートスペースのイメージがありました。日本にも子どもに限らず、大人もものづくりができて、さまざまな専門分野のクリエーターたちが集まって創作活動をする場所があったらどんなに面白いだろうと思っていました。
「子育て未来トーク」というイベントで「ちょこネット」(NPO法人ちょうふ子育てネットワーク・ちょこネット)の竹中裕子さんにその話をしたところ、「やろう!やろう!」ということになり、トントン拍子で話が進み、深大にぎわいの里2階に「街のアトリエ」としてオープンすることになりました。
-街のアトリエ1号室として、現在どのような活動をされているのですか?
5月から、幼児から小学生対象の「おそとであーと」という講座を開いています。野川の自然環境を生かして、自分の好きな材料を拾ってきてものづくりをする講座です。四季を感じながら、子どもたちが五感をフル活用することで、感性と創造性を伸ばしていくことを目指しています。6月からは「あーとABC教室」が始まります。幼児から小学生を対象にアートと英語のレッスンを同時に行う教室です。表現活動を通して、自分らしさを発見し、「私」を表現できるようになることを目指しています。
その他、いくつものイベントやプログラムが始まります。
6月末には「農のアート&サイエンス」というイベントを予定しています。「調布のやさい畑」さん(深大にぎわいの里1階)とコラボレーションして、「やさい畑」さんの農地を訪問して、農作物が育つ現場を見て、食べて、表現活動をする、家族向けのプログラムです。また、大人を対象としたシルバースプーン講座やガラス細工講座など、6月から続々と始まります。
-これからの「街のアトリエ」をどのように思い描いていますか?
私が運営する1号室は子ども向けの教室をメーンとしながら、私自身が子どもたちに負けないように作品制作をする場に。さらに、「街のアトリエ」2号室、3号室とさまざまなクリエーターの方がこの建物の物件に集まってくるよう呼び掛け、一緒に「街のアトリエ」をつくっていきたいと考えています。
「ものを作る」行為が日常生活の中から失われがちだと思うので、アートに触れる機会がなかった人でも、作ることの楽しさや大変さを感じてもらえるような場にしていきたいと思います。
街のアトリエに関わることで、日常生活の中の「困ったこと」をアイデアで解決していくなど、ものづくりを通して選択肢が増え、生活がよりクリエーティブで楽しいものになっていけばうれしいです。
(取材協力:スポットライト出版)