特集

シリーズ【調布で輝く人たち】Vol.03
「誰もが働ける機会をつくりたい」
「非営利型株式会社Polaris」共同代表・大槻昌美さん

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写真:非営利型株式会社Polaris共同代表大槻昌美さん 運営するコワーキングスペースco-ba CHOFUで写真:非営利型株式会社Polaris共同代表大槻昌美さん 運営するコワーキングスペースco-ba CHOFUで

「誰もが働ける機会をつくる」
 そんな目標を掲げる「非営利型株式会社Polaris(ポラリス)」(調布市小島町2)。「ポラリスは何をしているか分かりにくいとよく言われます。職業の調べ学習をする娘の宿題の題材にもしてもらえませんでした」と笑う、創業メンバーで2016(平成28)年から代表を務める大槻昌美さんに、ポラリスのこと、大槻さん自身の思いを聞いた。

【ちぎり絵のようなチームで働く】

ポラリスは、「『未来における当たり前の働き方』をつくる」をミッションに掲げ、2011(平成23)年に創業した。「誰もが心地よく暮らし、心地よく働く社会の実現」を目指し、身近な地域の中で、個々人がライフステージに合わせて望む形で働ける機会と仲間づくりの場の創出に取り組んでいる。

単なる下請け作業ではなく、個性を生かしながら、クライアントと一緒にチームで取り組める事業を作り出し、メンバーは業務委託で業務に当たる。「個人のスキルのパズルで出来上がる業務ではなく、それぞれの個性が重なり合い、補い合って作り上げる『ちぎり絵』のような業務スタイルが柱」と大槻さんは表現する。チームとして取り組むことで、業務が標準化・可視化され、さまざまな問題も多様な視点から捉えることができるほか、スキルが共有されることで誰かが欠けても業務を継続できるという大きなメリットがあるという。

その結果、仕組みとして継続できる案件を着実に増やし、2019年には、「東京都女性活躍推進大賞」地域部門で大賞を受賞した。

写真:東京都女性活躍推進大賞の盾写真:東京都女性活躍推進大賞の盾

【働き続けたい、誰かの役に立ち続けたい】

大槻さんは20歳と18歳の娘を持つ母。「子どもがいても働き続けたい、誰かの役に立ちたい」と思っていたが、大学卒業後に働いていた会社は「母親は育児に専念するのがいいのでは」という風潮があり、出産を機に退職した。子連れでも自分ができることは何かを考え、世田谷区の子育て支援NPOを通して産後の家庭でのご飯作りサポートなどを行うようになった。「里帰り出産できない人がいることに気付いていなかった。孤独になりがちな産後の母たちの話し相手になることも役に立っていると感じた」と当時を振り返る。

活動を通して、地域に仕事を作り出している人たちに出会い、後にポラリス創業者となる市川望美さんや、現在共に経営を担う山本弥和さんとも出会った。当初は子育てひろばの利用客と、母たちへのサービスの提供者という関係だったが、市川さんが考えている事業の構想を聞き、「制約があっても働ける場を作る」という考えに共感したことから創業メンバーになることを決めた。

写真:Polaris初代代表の市川望美さん(右)と2代目代表の大槻昌美さん(中央) 5周年イベントで写真:Polaris初代代表の市川望美さん(右)と2代目代表の大槻昌美さん(中央) 5周年イベントで

【仲間と共に組織をつくるフォロワーシップ経営へ】

創業者の市川望美さんから代表を交代したのは、創業から約5年後。市川さんは、今ないものを作り出すために、ミッションやビジョンを掲げて事業を進め、大槻さんらと共に実績を積んだ。事業が軌道に乗り始め、次のステップとして、クライアントやメンバーとコミュニケーションを取りながら進める経営スタイルが必要だと考え、代表を交代して大槻さんが務めることになった。

大槻さんのスタイルは、メンバーに寄り添い伴走するフォロワーシップ経営。メンバーの自主性を尊重し、対話を重ねながら一緒になって事業を進める。2024年には経営陣を5人体制から2人体制に縮小し、各事業のディレクターが中心になって事業を引っ張る形に変更。これによってより多くのメンバーが能動的に関わり、意見を交わすようになったという大槻さんは「皆で作り上げている一体感や、仲間がいる安心感が増した。仲間がいるからできることが増えて、可能性が広がっている」と組織の成長も感じているようだ。

その中で大槻さんは自分の役割を「楽しく働くこと」だと言う。経営のトップとして「組織がどうありたいか」を常に考え、発信し、全ての事業に目を配りながら、時にはディレクターとして現場に出向き、事業を推し進めている。

写真:2025年4月に創刊したフリーペーパー「くらすとはたらく」の制作はメディア制作事業のメンバーが担当写真:2025年4月に創刊したフリーペーパー「くらすとはたらく」の制作はメディア制作事業のメンバーが担当

【調布の思い出は出会った人たち】

大槻さんが市内に引っ越してきたのは2003(平成15)年。結婚を機に、たまたま選んだ地域だった。住んでみて感じるのは、自然が多く、背伸びせずに生活できる過ごしやすさ。「調布の思い出の場所は?」という問いに対し、「調布の景色より、ここで出会った人たちの顔が思い浮かびます」と答えた。

ポラリスは当初、京王線仙川駅近くに事務所兼コワーキングスペース「cococi(ここち)」を構えていた。加えて調布で運営していたコワーキングスペース「co-ba CHOFU(コーバちょうふ)」の移転に合わせ、事務所を併設する形で2021年に調布駅前に移転した。コーバの運営は、当初クライアント企業の運営業務サポートとして携わっていたが、その後、事業承継し、ポラリスが提案する「心地よく暮らし、心地よく働く」ことを具現化する場と位置づけている。

コーバでは、会員間のコミュニケーションを促すイベントを開催したり、会員とコミュニティーマネジャーでチームを作って調布の駅伝大会に出場したりするなど、「地域の知り合いを増やそう」を合言葉に、元会員と共催する地域交流イベント「調布交流会」なども実施している。さらに、会員が関わる組織の事務局や、経理サポートなどをポラリスで請け負うなど、人とのつながりから数々の新たな「機会」を作り出している。

移転後すぐの2021年7月には調布市の基本構想策定推進市民会議にも参加し、移転を機に、市内でさらに多くの人とのつながりが生まれた。「街の人との出会いを日々楽しんでいる。毎日、誰かとすれ違わないかなと、きょろきょろしながら市内を歩いています」と大槻さんは笑う。

写真:co-ba CHOFUで開催した調布交流会写真:co-ba CHOFUで開催した調布交流会

【事業継承のサポートとバトンを渡す準備】

今後、関わりたいと思っていることは、地域の事業継承のサポート。人手不足などで事業を続けることに悩んでいる経営者と一緒に継承の方法を考え、時には事業をサポートし、未来につなげることに貢献したいという。

大槻さん自身、ポラリス創業時のビジョンやミッションの下、皆でアイデアを出し合い、多様な関わり方のメンバーとともに、フォロワーシップ経営にスタイルを変えて事業継承した。コーバの運営も創設者が描いたコンセプトを継承して運営している。現在の代表という役割も「バトンを預かって走っている感覚」だと言い、「バトンを渡せる準備もしていきたい。それらの経験も生かして、事業継承の面からも地域の役に立てれば」と話す。

誰もが望む形で働ける機会を作る取り組みは、まだまだ発展途上だとも言い、「個人的には、長年の夢であるホテルで働いてみたいと思っている。生涯働き続け、誰かの役に立ち続けたい」と大槻さん。

「楽しく働く大人を増やし、その人らしくいられる社会の実現」を目指すポラリスと、それを体現する大槻さんの未来はこれからも続く。

写真:co-ba CHOFUの会員とチームを作って出場した調布市駅伝大会
写真:co-ba CHOFUの会員とチームを作って出場した調布市駅伝大会

非営利株式会社Polaris ホームページ

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