調布市と府中市を結ぶ旧甲州街道は甲州街道と共に江戸時代から発展し、街道沿いには宿場町が栄えてきた。旧甲州街道の調布駅周辺には、江戸時代から続く商店が今も残る。
やまぐち酒店の歴史は古く、江戸時代まで150年以上もさかのぼる。前身は「立花屋」の屋号で、宿場町の客を相手に古道具店を営んでいたという。その頃の様子は、1981(昭和56)年まで調布市郷土博物館に所蔵されていた「煙草仕入れ観察記録」という資料に記録が残る。
「やまぐち酒店」に屋号が変わったのは昭和初期のこと。その後、1962(昭和37)年に現社長の山口昌之さんが先代から後を継ぎ、酒販店へと業態転換した。55年が経過した今、「やまぐち酒店の長い歴史を考えると、ごく最近のことのように感じる」と山口さんは当時を振り帰る。
店頭での販売や飲食店への卸販売を行うほか、10人規模から1万人規模の大きなものまで、地域に密着してイベント開催をサポートしてきた。やまぐち酒店のホームページには「お酒のことやイベントの段取りなど何でも聞いてください」と書かれている。酒やイベントに関して「どんなことでも相談に乗る」というのが店のスタンスだ。
経験に裏打ちされた突発的なトラブルへの対応力などは、チェーン店にはない個人商店ならではの強み。「あそこに任せておけば大丈夫」と評判を呼び、取引先は口コミで増えてきた。新型コロナウイルスが流行する2年前までは、多い時は月に10件以上のイベントの仕事を受けるほど引く手あまただった。大規模なものでは、毎年夏の花火大会や2019年のラグビー・ワールドカップなど、調布市内のイベントを中心にさまざまな依頼に応えてきたという。
近年、酒販を備える大手家電量販店や酒類が充実する高級スーパーなどがオープンするなど、酒販業界を取り巻く近隣の環境は大きく変わってきた。コロナ禍でイベントが中止・縮小する状況のなか、「経営は大丈夫ですかと心配の声を頂くこともある。気持ちはありがたいが、実は取引先の数はコロナ前よりも増えてきている」と山口さん。
やまぐち酒店のもう一つの魅力が、「たばこの母」こと妻のひろみさんの存在だ。深い商品知識に加え、喫煙の仕方やマナーなどの情報も伝えながら販売するため、その人柄に引かれるリピーターも多い。店に来ても、ひろみさんがいないと買わないという客も少なくないという。
写真:ほかでは見かけない珍しいたばこや葉巻もそろう
「地域に密着して、お客さまの要望に最後までお付き合いすること」と山口さんの経営哲学はシンプルだ。「ものを売るだけなら、売れたらお客さまとの関係はそれで終わりになってしまう。でも、私たちはものそのものではなく、機能や仕事のあり方を売っている。相談いただいたことに対して、我々がお手伝いして応えていく。そこに、お客さまはうちを利用する理由を感じてくださっているんだと思う」。
先代から歴史と「地域密着」の経営理念を引き継ぎ、酒販店として発展してきたやまぐち酒店。「旧甲州街道があったから商売が成り立ってきた。この道路や景観を含めて、これからも地域を大事にしていきたい。地域とのつながりを見えるようにするのが自分の役割」と山口さんは今後への思いに力を込める。
【やまぐち酒店】
住所:〒182-0024 東京都調布市布田2-39−1
電話番号:042-482-3348
営業時間:9時~20時
定休日:日曜日