毎日の食卓の中心にいつもある、日本の主食「お米」。炊飯器や米の銘柄にこだわる人は多いが、ワインを選ぶように料理に合わせて米をペアリングしている人はまだ少ないかもしれない。
「日本で作られるお米は300品種以上もあって、そのうち流通しているのは約100品種です。『今日の夕飯はお刺し身だから、お刺し身に合うお米を2合だけ買います』というように、料理に合わせてお米を選ぶお客さまも増えてきています」と教えてくれたのは、山田屋本店6代目、5つ星お米マイスターの資格を持つ秋沢毬衣さんだ。
山田屋本店は1905(明治38)年に調布で創業し、117年の歴史を持つ老舗米穀店。調布市内では店名の「お米館」としても長く知られている。毬衣さんの曽祖父の父である島田彦太郎さんが勤め先の米穀店からのれん分けしてもらい、「山田屋」の屋号で商売を始めたのが始まりだという。
「私のひいひいおじいさんが創業した当時は、お米だけではなく、しょうゆやみそ、塩など、日常的な食材全般を扱う店だったと聞いています。店の電話番号が24とあるのは、調布で24番目に電話が引かれたということだそうです」と毬衣さんは昔の山田屋本店の写真を見せてくれた。
1995(平成7)年に改正食糧法が制定され米の流通が自由化されるまで、米を国が管理していた時代があった。米の販売には免許が必要で、免許を持った米店では、国が決めた流通のルートで調達した米を販売していた。
そうした時代にもかかわらず、毬衣さんの祖父、4代目の岩佐敬山さんは「米もそのうち食味(質)の時代が来る」という先見性を持っていた。そして、品質が良く、味の良いものを自分で産地に探しに行き、販売することを通じて、地方の産地とつながりを持つようになっていった。
「お米は1年に1回しか獲れないので信頼の商売なんです」と毬衣さんは語る。「生産者さんが作ったお米が消費者の方に届くように、『こういう品種のお米が今のトレンドです』『こういった味のお米を作ってほしい』など消費者のトレンドを産地に伝えることも私たちの仕事です」。毬衣さんは幼い頃に祖父や両親と日本各地の産地を訪ねて回った思い出を大切にしながら、現在も足しげく産地を訪れているという。
毬衣さんは山田屋本店の歴史を「祖父は、会社を広げようとした人。そして、父、5代目の秋沢淳雄は、個食の時代を見据えて、働く世代向けにいち早く少量パックを作って売り始めた人でした」と振り返る。「そして私は、よりパーソナルな米屋を目指していきたいと思っています」。
米の好みは十人十色。一人一人のニーズや好みに合ったものを、ヒアリングしながら提案するのが、毬衣さんの目指す米店の形だ。
2022年3月には、東京の田んぼを守るため「東京お米サロン」というプロジェクトを立ち上げた。田植えや稲刈りなどの体験型イベントを通じて、米について考える機会を提供している。いずれは「東京米」として販売も検討しているという。
地域ブランディングにも力を入れている。産地と一緒にその米の強みを考え、パンフレットのデザインやキャッチコピーにも反映させる。2022年10月29日に販売を始めた新品種、秋田のブランド米「サキホコレ」もその一つ。毬衣さんは開発からブランド化まで携わってきた。大粒で粘りがあり、強い甘みが特徴のサキホコレには、2021年のプレデビューの時から注目が集まっているという。
調布駅近くにある山田屋本店の店舗「お米館」では、祝日を除く毎週土曜日は20%引きで米を販売している。玄米は1キロから販売し、精米も無料で行う。新米が楽しめる今の季節、ぜひお米館で相談しながら、自分好みの米を選んでみたい。
【山田屋本店】
住所:〒182-0024 東京都調布市布田2-1-1(お米館 調布本店)
電話番号:042-482-4585
営業時間:10時~18時
定休日:日曜日・祝日・水曜日