調布市国領の調布くすのきアパートの一角には、地元の人に愛される昔ながらの個人商店が並ぶ。中でも「肉のタナベ」は95年もの長い歴史を持つ老舗店。現在4代目として店を切り盛りする田辺雄一さんに話を聞いた。
前身は、調布駅前の旧甲州街道沿いで田辺商店として1927(昭和2)年に創業。創業者は雄一さんの曽祖父、田辺安五郎さん。元々は馬喰(ばくろう)と呼ばれる牛飼いとしてスタートし、その後は枝肉と呼ばれる骨付きの牛肉を近隣の飲食店に納める仕事がメインになった。
「当時は、まだ保存技術が発達していなかった時代。牛肉は骨付きのままの状態で冷蔵庫に寝かせ、余分な水分を調整しながら精肉にして販売する昔ながらの『枯らし熟成』と呼ばれる方法で管理していたと聞いたことがあります」と雄一さんは話す。
1973(昭和48)年の「調布くすのきアパート」完成のタイミングで、田辺商店は「肉のタナベ」と屋号を変え、国領へと移転。雄一さんの祖父で2代目の且博さん、雄一さん父で3代目の秀雄さんの代を経て、2020年、雄一さんが4代目として後を継いだ。地元の保育園や学校に給食用食肉を納めるほか、店頭での販売も行っている。
雄一さんは調布生まれ、調布育ち。大学卒業後、焼き肉店での修業を通じて肉の面白さを再認識したという。雄一さんによれば、肉の面白さはその売り方の多様さにあるという。「いかに無駄なく魅力的に肉をカットして販売するか。難しくて頭を使うけれど、それがとても面白い。よりおいしいと思ってもらえるように商品化することを心がけている」と雄一さん。
「肉のタナベ」で取り扱う肉は、豚肉と鶏肉、牛肉。給食では豚肉と鶏肉が中心だが、店頭では牛肉に力を入れる。「肉のタナベ」で取り扱う牛肉は国産牛のみ。中でも黒毛和牛をメインで販売。カルビやロースなどの定番牛肉のほか、かいのみ、フランク、ブリスケといった希少部位も人気だ。
「肉のタナベ」といえば2021年、コロナ禍での新成人に肉をプレゼントするという心温まる企画が話題になった。この企画はなぜ生まれたのだろうか。雄一さんは「これからの未来を担う地元・調布の新成人の方たちの成人式が、あの年はコロナの影響でなくなってしまった。節目なので、何か僕らが盛り上げなきゃと思った。肉をもらった方が『よっしゃ!』と元気を出してほしい、そんな思いで企画したと当時を振り返る。
地元の精肉店の良さは、店のスタッフと客が互いに顔を見て販売できることだと雄一さんは語る。肉を指定してオーダーしてカットしてもらうことも可能。少量から大きな塊肉まで、柔軟に対応できることも強みだという。
高級な肉を扱うイメージが強く敷居が高い印象もあったが、実際に訪れてみると、親しみやすいスタッフが出迎えてくれる温かい雰囲気の店。店頭で販売しているメンチカツやコロッケなどの手作り総菜も人気を集める。
「若い人、お子さんのいる方、高齢の方など、このエリアにいらっしゃるいろいろな方に楽しんでもらえる店を目指している。ここに来るのがワクワクすると思ってもらえるよう、商品やスタッフの魅力を高めていきたい」
【肉のタナベ】
住所:〒182-0022 東京都調布市国領町3-8-15
電話番号:042-482-3153
営業時間:10時~19時
定休日:日曜日・火曜日