時の流れとともに変わりゆく調布の風景の中で、今も残る古き良き銭湯文化は貴重な存在となっている。その中でも、柴崎駅の近くにある「神代湯」は家族経営の銭湯として3代にわたり、伝統と温かさを守り続けてきた。移転や建て替えを経て、地域内外の人々から今もなお愛されている。銭湯の扉を開ければ、湯気が立ち昇り、心地よい湯の香りが漂い、人々の笑い声や会話が響く。そこには懐かしさと安心感が広がっている。神代湯の扉を開けて、そこに広がる銭湯の歴史や銭湯文化の魅力をひもといてみよう。
神代湯は1955(昭和30)年に創業し、古瀬さんの祖父が現在の場所から数軒離れた甲州街道沿いで開業した。当時は現在の調布市の野川以北は「神代」と呼ばれる地域だったことから、「神代湯」という名前が付けられた。当時は家庭に風呂がある家が少なく、神代湯のある柴崎エリアは共同トイレ付の下宿の数も多かったため、神代湯は家族連れや年配者など多くの利用客でにぎわった。
神代湯は家族経営の銭湯であり、古瀬さんの父も、3代目の古瀬さんも、小中学生の頃から銭湯の仕事を手伝いながら、銭湯の経営を間近で見続けてきた。昔は銭湯の湯はまきだきで沸かしていた。これが一番の重労働だったと古瀬さんは語る。「近所で家を解体するという情報が入ると、おじいさんはリヤカーを引いて、そこに廃材をもらいに行っていて、廃材からまきにしていたそうです。平成に入ってガス100%に切り替わるではまきを使っていたので、リヤカーでもらいに行くことがなくなっても、廃材屋さんがうちまで廃材を届けに来てくれていました」
1969(昭和44)年には現在の場所へと移転。創業後わずか14年後のことだったが、当時の銭湯需要の高まりから、移転して施設を拡大した。このころから、神代湯の人気はさらに広まっていった。
古瀬さんの父が60歳の時に脳梗塞で半身不随となったことから、古瀬さんが経営を引き継いだ。それからというもの、ネットやSNSの普及、昨今のサウナブームにより、神代湯の評判は口コミで調布市以外にも広まっていった。神代湯の魅力は、充実の10種類の風呂だ。日替わりの個性的な薬湯(チョコレートやボンタンアメなど365種類)に、外気浴のできる露天風呂、高温湯、でんき風呂があり、ジェットバスは4種類もあり、サウナと深めの水風呂が特に人気を集めている。シャンプーやボディーソープが備え付けであり、タオルレンタルもあるため、手ぶらで利用できる点も利便性が高く評価されている。
現在では、神代湯には会社帰りの人々や外国人の方々も訪れるようになった。あるフィンランドからの留学生は「フィンランドのサウナよりも、日本のサウナの方が素晴らしい。日本にこんなに素晴らしい文化があるなんて」と称賛していたという。こうした国際的な交流も、神代湯の魅力を広めるきっかけになっていそうだ。
神代湯は地域の人々にとっての憩いの場であり、日本の銭湯文化の一部として大切な役割を果たしている。古瀬さんは「この日本独自の銭湯文化をこれからも守っていきたい」と語ってくれた。神代湯はこれからも人々の心身を癒やし、交流を深める場として愛され続けるだろう。
【神代湯】
住所:〒182-0007 東京都調布市菊野台1-13-1
電話番号:042-489-2641
営業時間:14時~23時
定休日:水曜日