特集

シリーズ【調布の老舗探訪】Vol.13
『老舗いり豆店の新たな挑戦』
-「玉川屋煎豆店」2代目・小林和彦さん、3代目・小林憲司さん

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写真:3代目・小林憲司さん(左)と2代目・小林和彦さん(右)写真:3代目・小林憲司さん(左)と2代目・小林和彦さん(右)

調布市布田にある「玉川屋煎豆店」は、手間をかけて作るいり豆で長年地元の人々から愛されている豆専門店だ。主力商品は大豆と落花生のいり豆。いり大豆は布多天神や深大寺、国領神社の節分の豆まきで使われることでも知られている。そのほか、黒豆や金時豆など7~8種類の豆も取りそろえている。

写真:2022年11月にリニューアルを終えた玉川屋煎豆店写真:2022年11月にリニューアルを終えた玉川屋煎豆店

創業は1958(昭和33)年。三鷹の農家の2代目だった玉川屋初代の小林歳次さんは、初台で営んでいた親戚の豆店を手伝った後、豆の知識や技術を身につけて独立した。その時に店を構えたのが調布市布田だった。多い時はショーケースに30種類もの豆が並んでいたという。現在では取り扱う品数は5分の一ほどになったが、玉川屋は今も同じ場所で商売を続け、今年で創業65年目を迎える。

創業当時の日付が入った升。当時は升で豆を量っていた写真:創業当時の日付が入った升。当時は升で豆を量っていた

玉川屋の強みは、選び抜いた素材と長年培ってきたいり豆の技術。節分のいり豆は北海道の大豆を一晩水に漬け、半乾きにしてから専用の機械で1時間ほどいる。

落花生は千葉県の八街のものを使用。いり時間は約15分と大豆と比べて短い。いり落花生は殻付きのものと、皮付きのものがあるが、殻付きのものは中が見えないため特に難しい。いっている途中の熱い状態のまま、手を入れて落花生を取り出し、むいて中を確認するという。皮付きのものも、いっているうちに皮がむけてしまわないよう、1カ月天日干しして水分の抜けた落花生を使うというこだわりだ。玉川屋のいり落花生を一度食べたら、もうスーパーの落花生は食べられないというリピーターも多い。

写真:千葉県八街産の落花生は玉川屋煎豆店の人気商品写真:千葉県八街産の落花生は玉川屋煎豆店の人気商品

玉川屋煎豆店2代目の小林和彦さんは、これまで約30年間、豆をいり続けてきた熟練の職人。それでも「100%うまくできたということはない。いつもちょっといり加減が多かったり、少なかったりして、満足いく仕上がりにはならない」と言う。消費者には気づかないほどのわずかな違いかもしれないが、この言葉からも、高い水準を追求していることが伝わってくる。

写真:玉川屋煎豆店で長年使っているガス赤外線煎機写真:玉川屋煎豆店で長年使っているガス赤外線煎機

2022年の秋、小林さんは体調不良で突然入院することになった。ちょうど店のリニューアル工事の終わる日だった。いつものように豆をいったり、車で買い物に行ったりした後、持病の高血圧から脳梗塞を起こし、倒れてしまう。

玉川屋煎豆店の一番の繁忙期が節分。毎日8時間大豆をいり続けないと回らないくらいの大忙しだという。その直前の和彦さんの入院。そのピンチを救ったのは、長男の憲司さんだった。実家に戻り、店に入ることになった。

「ゆくゆくは実家を継ぐことになるかもしれないとは思っていたが、急なことだったので、とにかく節分に向けて、注文いただいている方々への責任を果たさないといけないと思い必死だった」と憲司さんは当時を振り返る。幸い和彦さんは2022年11月の終わりに退院でき、体の回復とともに再び店に立つようになった。そして、親子2人で節分のいり豆作りを乗り越えた。

「倒れたときは最悪のことも言われて心配したが、今はこうやって帰ってきてくれて、店にも立てるようになったので本当に良かった。店のことを何も分からないうちに父が倒れてしまったのだが、これからは父から吸収できるうちに仕事を覚えたい」。昔ながらの煮豆料理が家庭料理から姿を消しつつあり、豆業界を取り巻く環境は厳しくなっているなか、地域の人から愛され続ける店を目指し、今後も小林さん親子の挑戦は続く。

玉川屋煎豆店
住所:〒182-0024 東京都調布市布田2-33-3 玉川屋ビル
電話番号:042-482-3839
営業時間:10時~18時
定休日:なし

玉川屋煎豆店ホームページ

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