調布市布田にある荒物雑貨店「ちょうちんや川口商店」の歴史は江戸時代までさかのぼる。川口商店の3代目、川口恭男さんの先祖はもともと多摩川に住んでいたが、江戸幕府が甲州街道を引く際に、今の川口商店を含む旧甲州街道から甲州街道を南北につなぐ細長い土地を授けられた。
その後、恭男さんの祖父で初代店主の茂八さんが、大正時代に旧甲州街道に面した場所で川口商店を創業。茂八さんはちょうちん・傘張の職人としてちょうちんを販売する一方で、ちり紙やせっけん、たわし、ほうきなどの日用雑貨を扱う荒物雑貨店として長年地域に根差した商いを行った。ちょうちんは祭りの場だけでなく、戦時中には出征者の見送りにも広く使われていたという。「ちょうちんや」の愛称は今も受け継がれている。
恭男さんの父で2代目の賢一さんは、第二次世界大戦中は海外派兵されていたが、日本に戻ってきたときには茂八さんは亡くなっていた。そこで、賢一さんは父の跡を継ぎ、同じ場所で商売を続けた。
際物と呼ばれる季節商品も、川口商店では古くから取り扱われていた。正月の門松や3月のひな人形、5月の五月人形などだ。現在、節句人形は取り扱っていないが、昭和時代には賢一さんは切り抜き型を手作りし、のぼりに家紋を入れて販売していたという。
恭男さんは中学時代から自転車で配達業務を行うなどして家業を手伝い、1992(平成4)年に経営を引き継いだ。今でも盆や正月の季節商品は根強いニーズがあるが、それ以外の時期はフライパンややかんなどの日常的な暮らしの道具が売れている。「値段では量販店にかなわないが、近所にあるという利便性がいいのでは」と恭男さんは話す。
盆の供え物や正月の神酒口、縁起物の絵馬など、現在では扱っている店が非常に限られているため、遠方から川口商店に買いに訪れる客も多いという。「神酒口は神様とのアンテナとして正月を迎えるために神棚に備えるお神酒の口に供えるもの。神棚のある家が減って神酒口を求める客も減ってきたが、昔からの客が今も来てくれている」と恭男さん。
2022年に川口商店は築30年のプレハブ店舗を改修し、新しくなった建物で営業を再開。新しいショップカードには「ちょうちんや」の文字を追加した。これは恭男さんの三女・小西襟子さんのプロデュースによるもの。小西さんは、キャッシュレス決済を導入したり、若者に人気の商品を仕入れてSNSで情報発信したりするなど、川口商店に新たな風を吹き込んでいる。川口商店のSNS投稿を見て来店する人や、前を通りかかってフラリと店を訪れる人はリニューアル前よりも増えているという。
これまでに築いてきた100年を超える伝統を尊重しながら、新しいニーズにも対応する川口商店。これらの努力は店の活気へとつながり、地域の人にとって、なくてはならない存在になっている。「どんなものを置いているのか、見るだけでもいいので、ぜひ一度足を伸ばしてみていただければ」と恭男さんはにこやかに語る。
【ちょうちんや川口商店】
住所:〒182-0024 東京都調布市布田1-30-3
電話番号:042-486-7272
営業時間: 8:00~17:30 土曜日のみ 9:00~17:30
定休日: 日・祝