映画やテレビ番組の仕上げなどを手掛ける「東京現像所」(調布市富士見町2)が特撮怪獣映画「モスラ」の4Kデジタルリマスター(修復)化を行い、12月10日から「午前十時の映画祭」の一本として全国の映画館で上映される。1961(昭和36)年の初公開から60年の時を経て最新技術で「モスラ」が復活した。
「モスラ」初公開時のポスター © TOHO CO., LTD.
1955(昭和30)年に東宝や大映などの出資で設立された東京現像所は、黒澤明監督や小津安二郎監督、宮崎駿監督、北野武監督らの作品を手掛けてきた。同社は映画界全体がフィルムからデジタルへ移行した今でも8ミリ~35ミリフィルムが現像可能な技術を持つ国内有数の企業。リマスター統括の清水俊文さんは「深大寺のきれいな湧き水を施設内のプールにためて現像に使っている」と明かす。外国映画の日本語字幕も制作しており、最近では「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」や来年公開予定の「トップガン マーヴェリック」などがある。
これまで「ゴジラ」シリーズや「日本沈没」(1973年版)といった東宝の特撮映画のリマスターを9作品手掛けてきたが、「『モスラ』が一番大変だった」と語る。「フィルムが裂けているなど損傷が激しく、『大手術』だった」と清水さん。リマスターの製作工程は、まず素材のフィルムと音声をデジタル化し、ゴミや傷を消す「レストア」や色調整をする「グレーディング」、整音といった作業を行う。清水さんは「初めてモスラを見たのが小学2年生のとき。有楽町の日劇で見たゴジラ、ラドンとの3本立てで怪獣映画の洗礼を浴びた一作なので早く(修復)作業をしたかった。『モスラ』はフィルムの劣化が激しいと東宝側から警告を受けていて、『早く4Kにしましょう』と言っていたので今回実現できて本当に良かった」と言う。
「モスラ」には特撮ファンの間でささやかれている都市伝説があり、「今回はそれを解明するのにいい機会だった」と清水さん。その一つに「映画の冒頭に『序曲』が存在する」というものがあった。「序曲」に関しては、サウンドトラックに収録されており存在自体は知られていたが本編中に使われていないため謎とされていた。しかし今回のプロジェクトの過程で本編に序曲がある磁気4チャンネル音源が見つかり、4Kデジタルリマスター版の「モスラ」で初めて「幻の序曲」が聴けることになった。序曲が流れるだけの冒頭シーンに観客が戸惑わないように「画面に説明文を入れた」と清水さんは言う。
デジタル化の波にのまれ、フィルムで撮られた往年の映画を上映する機会も減った。リマスターコーディネート担当の小森勇人さんは「今はデジタル上映なので古い映画のフィルムが残っていても上映できない。古い映画をデジタル化することが必要」、清水さんも「過去の名作は時代を超えて受け継がれていかなくてはならない。日本でもどんどんデジタル化ができる体制が整ってほしい」と強調する。
「調布が新しく生まれ変わった映画のふるさとになると思うと、ここに現像所があって本当に良かったと思う」(清水さん)