幻想的なモチーフやダイナミックな都市風景を緻密に描いた植竹邦良(うえたけ・くによし)さんの回顧展「発掘・植竹邦良 ニッポンの戦後を映す夢想空間」が5月20日、府中市美術館(府中市浅間町1、TEL 03-5777-8600)で始まる。
植竹さんは1928(昭和3)年品川で生まれ、赤羽で育つ。1945(昭和20)年東京工業専門学校印刷科(現・千葉大学)に入学するが、学徒動員や空襲に脅かされる青年期を過ごす。戦後は工場実習として印刷工場で働きつつ、工専教師で画家の赤穴宏さんから絵を学び、猪熊弦一郎さんが主宰する田園調布純粋美術研究所に通った。
1950年代初頭の作品はほとんど残っていないが、スケッチなどに画家としての一歩を見ることができる。1960年代は安保闘争や学園紛争といった世相を象徴するモチーフと、私的な戦時下の記憶や執着を混在させて、無限に続く夢想空間を描いている。1970年代後半以降は、地形模型を介して現実と非現実の境のような不思議な感覚の作品を制作。都市風景のスケッチは晩年まで継続し、さらにダイナミックな作品を残した。
長年府中で暮らしながら制作を続けた植竹さんの作品を、同館で大きく紹介するのは今回初めて。学芸員の小林真結さんは「植竹邦良の幻惑的な絵画には、日本の戦後史を象徴するモチーフが複雑に編み込まれている。その作品の異様な迫力と、制作に懸けた熱量を感じ取っていただきたい」と話す。
同展では特集展示として「1960前後の『前衛』」を同時開催する。ルポルタージュ絵画で知られる前衛画家の中村宏さん・池田龍雄さん・尾藤豊さん・桂川寛さんの作品を紹介する。
関連イベントとして「展覧会講座」を同館講座室で開く。5月28日は小林学芸員による「植竹邦良案内記」、6月25日は足立元さん(美術史家・二松学舎大学准教授)による「戦後の社会と美術家」。いずれも14時開始で、参加無料(観覧券不要)。
開館時間は10時~17時(入場は16時30分まで)。会期中の休館は月曜。観覧料(常設展を含む)は、一般=700円、高校生・大学生=350円、小学生・中学生=150円(「府中っ子学びのパスポート」提示で無料)、未就学児と障がい者手帳などを持った人は無料。7月9日まで。