2019年に関東を直撃した「令和元年東日本台風(台風第19号)」で被害が甚大だった同市染地のタウンハウス「セボンデルソール調布」の住民らで立ち上げた自治会が、災害から5年となる10月12日、「セボンデルソールフェスタBBQ&JAZZ」を開催し、多くの家族が参加した。
「セボンデルソールフェスタBBQ&JAZZ」JAZZライブの様子
同台風は調布市が初めて避難勧告を発令し避難所を開設した記録的災害で、6000人以上が避難し、市内の多くの家屋が浸水被害を受けた。
2000(平成12)年竣工の同タウンハウスは、多摩川に近いエリアの約1600坪の敷地に63世帯が暮らす。同台風では全戸の地下居室が天井まで浸水した。二重ガラスの掃き出し窓は水圧で全て破損し、給湯器や機械式駐車場が水没により全損するなどの被害に見舞われ、夜間に避難していた多くの住民は翌朝、停電の中で帰宅し、泥水に囲まれたわが家を目の当たりにしたという。「誰もが、ぼうぜん自失だった」と、同自治会理事長・久保田紀之さんは当時を振り返る。
被災直後、発生する災害ごみの膨大さなど、直面した事態は復旧を急ぐ住民の想像を超えた。駆けつけた自治体の支援も、直後は連携がうまくいかず、数日は被災者自身が調整役も担ったという。混乱の中、久保田さんら同管理組合が被災直後に立ち上げたLINEグループに被災から半日で全世帯が登録した。「デジタルを活用したことで、情報共有や行政との窓口を一本化できたことは、支援の効率化につながった」と話し、全損した給湯器は、被災4日後に63基一括購入をグーグルフォームによる住民決議で決定、14日後には全戸で設置が完了するなど、迅速な復旧につながった。「全員がつながったことでコミュニケーションを取り合い、落ち込みや孤立を防ぐことにもなった」とも。それから全戸が復旧したのは5カ月後の2020年3月のことだった。
同イベントは、被災から約1カ月後、復旧の最中だったが、「互いに頑張ったね」という住民同士のねぎらいと心のケアを込めて、敷地内でバーベキューを開いたのが始まり。「バーベキューは私たちにとって特別な意味を持つ」と久保田さん。その後、コロナ禍で自粛していたが、被災から5年目の意味を込め、再開した。住民のほか当時の支援者や同市長なども招き、約200人が参加。この5年で培った住民や近隣地域のチームワークで手作りの音楽ライブやゲームもにぎやかに行われた。
参加した長友貴樹調布市長は「この一帯が水に沈んだあの日を一生忘れられない。市内ではラグビーワールドカップ開催中の災害で、復旧の最中の2カ月後には中国でコロナが発生するという疾風怒濤(どとう)の日々を私たちは共に過ごした。引き続き、災害の可能性を少しでも減らす対策を皆さんと一緒に考え講じていく」と話した。
久保田さんは「5年前の被災直後から多くの支援を頂いた。毎日無償でパンを配達してくれた近所のベーカリーなど、食事の助けになったのはもちろん、誰かが手を差し伸ばしてくれていることがうれしく、忘れられない。世話になった皆さんを今日、招くことができたのはとてもうれしく、被災をきっかけに生まれたこのコミュニティーを、今日のように、いつまでも笑顔があふれるように大切にしていきたい」と話す。
復旧の中心となった久保田さんらから成る同管理組合は2023年、組合と一体化する形で自治会を設立。行政との連携をしやすくするため、防災市民組織としても登録した。近年、自治会の解散数が全国最多という同市で、情報共有などをLINEで行うなど、役員の負担軽減と住民の参加促進を心がけ、新しい自治会運営を実践している。