特集

シリーズ【調布の老舗探訪】Vol.8
『四季の移ろいを和菓子に映す』
- 今木屋 5代目小宮崇さん

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「いらっしゃいませ!」京王線つつじヶ丘駅近くに店を構える「今木屋」に元気な声が響く。明治元年に日本橋で創業し、戦後つつじヶ丘に移転してから70年近くになる老舗和菓子店だ。5代目の小宮崇さんは家族と一緒に今木屋を切り盛りしている。

今木屋5代目の小宮崇さん写真:今木屋5代目の小宮崇さん

今木屋発祥の地は東京・日本橋通一ノ七。「日本橋」の橋のすぐ裏という一等地。「僕のひいおじいちゃんで、2代目の小宮新七の名前と店の住所が当時の菓子の包装紙にも残っています。今木屋を創業したのは、この新七さんのお母さん。軒先で煎餅を売っていたのが始まりだと聞いています」と小宮さん。

当時の包装紙に書かれていた2代目新七さんの名前写真:当時の包装紙に書かれていた2代目新七さんの名前

当時、今木屋で取り扱っていた和菓子は、丸型でサクッとした甘みのある煎餅「利休せんべい」と、その利休せんべいで餡(あん)を挟んだ「利休もなか」の2種類だった。屋号が「今木屋」になった理由は、小宮さんにも「残念ながら分かっていません」とのこと。今木屋の和菓子は、日本橋の百貨店でも販売されていたという。

百貨店で行われた東京名物品展覧会に「利久煎餅」「利久もなか」が出品された記録写真:百貨店で行われた東京名物品展覧会に「利久煎餅」「利久もなか」が出品された記録

戦争で日本橋かいわいが焼け野原となったため、一時期は百草園の近くに避難していたが、戦後、今木屋3代目の小宮新太郎さんがつつじヶ丘に店を構え営業を再開する。4代目の新一さんは当時、高校1年生。それから約70年がたち、今木屋は調布の老舗店として、地域の人たちに愛され続けてきた。

店頭ののぼりには季節のお薦めが並ぶ写真:店頭ののぼりには季節のお薦めが並ぶ

気さくで人懐っこい5代目の小宮崇さんは、人と話すのが大好き。学生時代に進路を考えた際には、ホテルなどホスピタリティー業界への就職も考えたという。しかし、そのころ、ちょうど店の建て替えを終えたタイミングだったこともあり、店を継がないともったいないという思いと、祖父や父の仕事ぶりを見て和菓子という日本文化を自分も伝えていきたいという思いから、和菓子業界へ足を踏み入れることを決意。20歳から、鎌倉の和菓子店や渋谷・松濤の和菓子店、高田馬場の製菓学校でそれぞれ修業を積み、和菓子職人となった。

上生菓子から洋風の創作菓子まで幅広い和菓子を取り扱う写真:上生菓子から洋風の創作菓子まで幅広い和菓子を取り扱う

小宮崇さんが修業を終えて店に戻ってから、今木屋の商品ラインアップは大幅に増え、現在では20種類を超える。お薦めは、2013(平成25)年に皇族に献上されたこともある「どら焼き」や「季節の上生菓子」、地元つつじヶ丘の本多鉄麿さんが作曲した曲名を冠した懐かしい味わいのミルクまんじゅう「思い出のアルバム」など、いくつもの看板商品の名前が挙がる。

皇室献上菓子の「どら焼き」はふんわりモチモチした食感が特徴写真:皇室献上菓子の「どら焼き」はふんわりモチモチした食感が特徴

ほかにも、南アルプス天然水を使った「ひと雫ジュレ」、子どもたちにもおいしく食べてほしいという思いで作ったチョコレートまんじゅう「調布っこ」、「カリっとさではうちのがダントツにおいしいです」と小宮さんが胸を張る「かりんとう饅頭(まんじゅう)」など、お薦めは尽きない。

「春は草餅や桜餅、夏は水ようかんやくず桜、秋は芋や栗を使ったものなど、その季節にしか作られない菓子や季節を表現する菓子が多いのが和菓子の大きな魅力」と小宮さんは話す。

特に小宮さんがこだわりを持っているのが上生菓子。四季折々のモチーフを盛り込み、長年培った技術で、美しく繊細な味わいに仕上げる。1年を通じ100種類以上もの上生菓子を作るという。

匠の技が光る季節の上生菓子。あさがお(左)と水あそび(右)写真:匠の技が光る季節の上生菓子。あさがお(左)と水あそび(右)

和菓子の製造・販売だけでなく、和菓子を通じた地域活動にも精力的に取り組む。その一つが、近隣の小学校での出前授業。寺とコラボレーションした和菓子作り体験も人気が高い。コロナ禍前は訪日外国人の参加も多く、これまでに10カ国を超える人たちから申し込みがあったという。和菓子の魅力を伝えたいという小宮さんの夢は、体験教室などの地域活動によってさらに広がりを見せている。

店内には、和菓子教室の参加者や出前授業を体験した学生からの感想文を飾る写真:店内には、和菓子教室の参加者や出前授業を体験した学生からの感想文を飾る

「利休せんべいと利休もなかは、いつか復活させたいと思っているんです」と小宮さんははにかんだ笑顔で語る。小宮さんの飽くなき探求心を原動力に、これからも魅力ある和菓子が生まれていきそうだ。

今木屋
住所:〒182-0006 東京都調布市西つつじケ丘3-25-11 今木屋ビル
電話番号:042-482-3619
営業時間:9時~19時
定休日:水曜日

今木屋ホームページ

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